健康の専門家に

日本の未来を明るくする

早いもので、自身のクリニックを開業してから10年以上が過ぎました。
日本一のモデルクリニックを目指し、
「心身の健康と豊かさを実現し日本の未来を明るくする」
という理念の下、クリニックを運営に邁進してきました。
私のクリニックを受診される患者さんはもちろん、働くスタッフとその家族、出入りする業者さん、そして私の家族と私自身……クリニックに関係する全員の方の幸せを叶えることが私のすべきことだと思ったからです。

そして、この想いを日本中のドクターに発信し共有することで、私のクリニックに関わる人たちのみならず、日本中の皆さんを幸せにすることができるのではないか……、その考えから私の想いを共有してくださる全国のドクターの皆さんとのコミュニティ(M.A.F)を立ち上げたり、クリニック運営に関する書籍を出版するなど、医師としての仕事以外にも力を入れてきました。

自分自身の健康と向き合う

そんな私は、開業医として歩み始めた頃、不覚にも自分の不摂生が原因で自身が生活習慣病を発症してしまいました。そうなった時、自分の病気を治して健康になりたいと思っている患者さんに、持病を抱えて不健康な医師が診察し治療を行うことなんてあり得ない……そう思って、自身の生活を見直すとともに、運動習慣を身に付けるためにランニングを始めました。学生の頃からランニング嫌いの私が、どうしてランニングだったかというと、自己啓発や経営のためのセミナーでお会いする卓越した経営者の多くがマラソンやトライアスロンなどに挑戦されていたこと、中でも、「レバレッジシリーズ」をはじめとする、著書累計250万部を超えるベストセラー作家であり、ベンチャー投資家、経営者で、ビジネス界のカリスマとも言われる本田直之さんがトライアスロンに挑戦されていたことが要因として大きいです。こういった方が挑戦しているマラソンやトライアスロンには、きっと取り組んでみて初めて分かる何か大きな理由があるに違いないと感じたのです。

ランニングに関しては、今ではフルマラソンでは飽き足らず、100キロのウルトラマラソンや250キロの砂漠マラソンを完走、トライアスロンの最高峰『アイアンマンレース』にも挑戦し、もはやアスリートの領域に入ってしまいましたが、元はと言えば自分の健康のために始めたことです。
ですから、運動習慣のみならず健康を手に入れるための様々な試行錯誤、例えば、増えた体重を落とすために糖質制限をしたり、

ファスティングを試みたり、食生活を考える過程で野菜ソムリエやファスティングマイスターの資格を取得してみたりもしました。次第に体力・気力ともに充実するようになり、一開業医としての診察も、医療法人の経営も、そしてプライベートも充実、活力あふれる生活を送ることができるようになったのですが、診察中に、ふと、ある疑問が私の中に湧いてきました。

健康の専門家を目指す

当たり前ですが、クリニックにやってくる方は皆さん病気です。
そして、それに対して私は治療を提供するわけです。治療を通じて患者さんの病気はよくなりますが、だからと言って患者さんは健康を手に入れたわけではありません。病気でないことと健康なことは一致しないからです。
「心身の健康と豊かさを実現し日本の未来を明るくする」との想いでクリニックを経営しているのに、”医者は病気は治せるけれど健康に関しては専門家ではない”ということに気づかされました。

ヒトは病気ではないというだけでは健康で活力ある生活を送っているとは言えず、本当の明るい未来を手に入れることは難しいのではないか……。
一方で、患者さんを毎日診ていると、ある病気の患者さんには共通するある傾向があることも分かりました。
私の専門である耳鼻咽喉科領域で言いますと、アレルギー性鼻炎の方は副鼻腔炎になりやすいとか、鼻風邪をひきやすい方は中耳炎になりやすいとか、ストレスや睡眠不足を感じている方はめまいを引き起こしやすい……などです。
病気になる前や他の病気を併発する前に健康でいられる方法を伝えることはできないものか、健康に対しても専門家でありたい……そう強く願うようになりました。

予防医学における日本の現状

残念ながら今の日本では、病気の予防に対して医療保険は使えません。
例えば、予防の一つである高齢者に対するインフルエンザワクチン接種や特定健診、がん検診などに対して市町村が独自に負担してくれることはありますが、医療保険は使えないのです。医者、特に開業医は保険診療で治療を行うのが通常です。ですから、いくらクリニックの運営に力を入れて、患者さんと話し合いながら希望に沿って一人ひとりに適した治療を提供したり、クリニックの理念を浸透させるようスタッフ教育もしっかり行ったりして、患者さんに満足して気持ちよく帰路についていただき、病気がよくなったとしても、患者さんが健康で活力ある生活を手に入れたことにはならないと感じました。
これからは、自分やスタッフが健康で活力ある日々を送っていることと同時に、予防医学を広め、患者さんにも健康情報を積極的に提供したいと強く思ったのです。

健康を保つ3つのバランス

私が健康にとって大切と思っているものは「食事」「運動」「睡眠」の3つです。

~食事~

「食事」は何といっても丈夫な体をつくる基で、ただお腹を満たせばいいわけではなく、極端なダイエットやもちろん食べ過ぎもNGです。栄養バランスのとれた食事を規則正しく食べるとともに、その内容にも注意する必要があるのです。例えば、肥満対策として低脂肪にこだわっている方も少なくないと思いますが、低脂肪にこだわっただけでは肥満は解消しません。そもそも脂肪は炭水化物、タンパク質とともに3大栄養素の一つで、ヒトにとって必要不可欠な栄養素なのです。
ですから、体重やコレステロール、中性脂肪などをコントロールするためには、脂肪がすべて悪いと決めるのではなく、まず脂肪には良い脂肪と悪い脂肪があることを理解する必要があります。

昨今動脈硬化や認知症の予防として話題となっているDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタ塩酸)という青魚に含まれている成分も良い油、つまり脂肪の一つです。
生活習慣病予防やダイエットのためにと無脂肪・低脂肪を徹底することはボロボロの血管を作り出して、健康を損ねてしまうかもしれない……、決して健康に良いとは言えないのです。一言でいえば、規則正しく必要な栄養素を一人ひとりの運動量に合わせて必要な量だけバランスよく摂取することが大切なのですが、分かっていてもかなりハードルが高いと思われるのではないでしょうか。

しかし悩むことなかれ献立に悩んだら「和食」をお勧めします。発酵食品の代表である納豆や味噌の摂取、魚を食べる習慣、野菜を煮て食べる習慣(加熱することで生野菜よりずっとたくさん食べられます)や海藻を食べる習慣、バリエーションの豊富さ、和食は塩分量さえ気を付ければ栄養バランスに優れた素晴らしい食事と言えます。

~ファスティング~

次に、心身の疲れがたまった時に私が行っているファスティングについて、少しお話したいと思います。
健康に対しての興味から様々な本を読んでいるうちにファスティングに出合いました。それまでの私は「ファスティング=ダイエットしているのかな?」くらいにしか思っていなかったのですが、プロ野球のダルヴィッシュ選手がオフシーズンに、また、大相撲の大横綱・白鵬関もファスティングを取り入れていると知って、ファスティングに対する興味がムクムクと湧いてきました。アスリートとしても自分のパフォーマンスをあげたい時期だったので、超一流のスポーツマンが行っているファスティングには、パフォーマンスを上げる秘密があるように思えて、自分でも勉強することにしたのです。

ヒトにとっての大切な酵素に、消化酵素と代謝酵素があります。
通常、毎日朝昼晩ご飯を食べることで消化酵素は使っていますが、飽食の現代では代謝酵素は有効に使われているとは言えず、ヒトの身体をリバランスする代謝酵素による機能は昔より落ちてきていること、そして、ファスティングはその代謝機能のアップを図れることが分かりました。
早速挑戦、思い立ったらすぐに実行するのが私の常ですから、とにかくファスティングに関してリサーチして医者の私が見ても「これぞ!」と思うファスティングに挑戦してみました。ファスティングはただ断食すればいいというのではありません。正しいファスティングには、断食に入る前の準備期から始まって、断食後の回復期を経て普通食に戻るまでの科学的な根拠に基づく過程があって、その過程を踏んでこそ、よい効果が得られるのです。基本を学ばないで素人考えでむやみに断食に取り組むことは、かえって健康を損ないかねませんので、注意が必要だと思います。

ファスティングには、大きくリセット効果とデトックス効果があると言われていますが、私がその過程を終了した時に、リフレッシュ感とともに感じたのは野菜など食材そのもののおいしさ、素材そのものの味でした。ファスティングで推奨されている薄味も慣れてくるとそれが普通になります。今までは本当に濃い味に慣れすぎていたなあと思います。例えば、現在私はサラダにはレモンとほんの少しの塩と胡椒しかかけません。濃い味のドレッシングは一切使っていません。それだけで十分野菜の旨味が味わえるのです。健康のために減塩を心がけている方はたくさんいらっしゃると思いますが、ファスティングを通して私は自然に、意識しなくても減塩、減糖できるようになりました。
ファスティングの経験を通して、今の現代人の味付け(濃い味が当たり前)、あるいは現代人がよく口にする揚げ物などに対する見方が自分の中で非常に変わったので、より一層、自分の食生活に気を付けるようになるという好循環が生まれてきたと思っています。

ファスティングは自分の食生活を考える上で非常に有用な手段であるとともに、年に1~2回定期的に行うことで、身体をリバランス、リフレッシュすることができるので、私にとってのファスティングは、健康を手に入れることが楽にできる手段の一つだと思っています。ファスティングマイスターを取った今、興味ある方に今後広めていけるような活動に携わりたいと思い、グループでファスティングを行うためのファスティングアプリも開発しました。

~運動~

次に「運動」についてお話ししたいと思います。
健康な生活を手に入れるには、適度な運動が大切……これは皆さん誰もが知っていることと思います。しかし、適度な運動を継続することが意外と難しいことも皆さんご存知だと思います。昨今のコロナ騒ぎの巣ごもりで高齢者の運動能力や認知機能の低下を心配する報道を目にされた方もいらっしゃると思いますが、科学的に見ても、運動しない人は老化が早まることが分かっています。ヒトの筋力は30歳くらいでピークを迎え、徐々に低下していきます。

80歳になると約3割から5割低下すると言われていますが、この2割の差は何なのでしょう?私は、30歳くらいのピークまでにどのくらい運動をしてどのくらい多くの筋肉量をつけられるか、そして、運動を継続することによって、つけた筋肉量をいかに保っていくかにかかっていると思っています。
でも、私はもう高齢だから遅いのね……と諦めないでください。歳をとっても徐々にですが筋肉量は増えます。最初は毎日のラジオ体操と週1~2回、20分くらいのウオーキングから始めてみましょう。大切なのは継続です。ご高齢の方の最終目標は、ウオーキングなら、早歩きで週3~4回、30分です。若くて余裕のある方は、どうぞ、もっと極めて、私と一緒にマラソンに参加はいかがですか?

~睡眠~

3つ目の「睡眠」、実は私は、寝たいときに横になればどこででも寝られ、不眠で悩んだことはありません。けれど、診療に当たっていると、日本ではずいぶん多くの方が睡眠について悩んでいらっしゃることが分かります。よく、ヒトにとっての適切な睡眠時間は7~8時間と言われますが、これは少し間違っていると思います。
すべての人に7~8時間の睡眠が必要なわけではありませんし、逆に7~8時間の睡眠時間をとっているから健康というわけでもありません。
一番大切なのは睡眠の質です。そして睡眠の質を高めるには、寝入った最初の90分のノンレム睡眠をいかに深くできるかが重要なことと分かっています。ノンレム睡眠は、大脳が休息し、脳や肉体の疲労回復のために重要と考えられている睡眠です。では、最初のノンレム睡眠を深くするにはどうすればいいのでしょう?
睡眠にはメラトニンという脳で分泌されるホルモンが関係しているのですが、メラトニンは夜になり辺りが暗くなると徐々に分泌されて睡眠のスイッチが入る仕組みになっています。よく眠れない人は夜スマホを見るな!という話を聞かれたことがあると思いますが、いつまでもスマホを見ているとメラトニンの分泌が減るというわけです。

そして、実はメラトニンを作り出す基になっているホルモンのセロトニンというホルモンで、このセロトニンは太陽を浴びて適度な運動をし適切な食事を摂ることによって分泌されるのです。
なお、睡眠時無呼吸症候群という病気で質の良い睡眠がとれない場合もあります。睡眠時間はたっぷりとっているのに日中眠くて仕方ない方、同居のご家族からいびきがうるさくて眠れないと言われている方は、耳鼻咽喉科や呼吸器内科で一度検査することをお勧めします。

最後に

「食事」「運動」「睡眠」それらが連動して、私たちに健康をもたらしてくれることがご理解いただけたでしょうか?
2021年4月、私の想いに共感してくださった医師100人で『健康医学』(フローラル出版)という書籍を出版しました。

健康に対する意識を高く持つ方が増えている昨今、様々な健康情報がネットなどで話題に上っていますが、中には科学的根拠は全くないばかりか、過度に取り入れたり、素人考えではかえって悪影響を与えかねない情報もあります。この本では、毎日、患者さんの治療に当たる医師が、科学的根拠と臨床医師としての経験を基に、「食」「サプリメント」「運動」「睡眠」「医療(薬)」「健康」「口腔ケア」「美容・ダイエット・アンチエイジング」の観点からお話ししてくださっています。この本が日本中の皆さんの健康の一助となってくれれば幸いです。