医師として

医療法人梅華会グループ

私は奈良県立医科大学卒業後、約10年の勤務医を経て2008年9月、兵庫県西宮市、阪急電鉄苦楽園口駅前に梅岡耳鼻咽喉科クリニックを開院しました。 その後、2011年11月、阪神西宮駅前に最初の分院を開院したのを皮切りに、2013年10月にJR 芦屋駅前、2014年9月に阪急武庫之荘駅前にも分院を開院しました。
診療を続けるうちに、風邪からくる合併症で耳や鼻の合併症をこじらせて受診するお子さんが多いことを経験し、もっと早期に治療を開始する必要性を強く感じました。

そこで2016年10月、最初の小児科の分院を神戸市東灘区に開院しました。ここで手ごたえを感じた私は、その後2018年4月、武庫之荘駅梅岡耳鼻咽喉科クリニックのビルの上の階に、11月には阪神西宮駅直結のエビスタ内にも小児科クリニックを開院しました。また、2018年6月には梅華会グループとして初めて関東に進出、東京都豊島区で内科も運営しています。
現在、グループ内のスタッフ数約100名体制で、年間14万人以上の患者さんに来院いただき、現役の医師として、法人の経営者として、忙しく毎日を過ごしています。

研修医時代

実際の現場にて

私が医師としての第一歩を歩んだのは、母校である奈良県立医科大学附属病院で耳鼻咽喉科臨床研修医としてでした。どこでも同じだと思いますが、研修医は月給制ではなく日給制なので社会保険は付きませんし、当然ボーナスも残業手当も付きません。当時の初任給は月額158,000円でした。上長からは「医師として何にもできないのだから、手当をもらって教えてもらえることを有難く思いなさい」と言われました。

そのような中で私の研修医生活が始まったのですが、そこには、患者さんを前に全然動けない自分が居ました。
大学の実習で注射の仕方を学びましたか? いえ、学びません。
メスの握り方を教わりましたか? いえ、教わりません。
この症状の患者さんがこういう血液検査の結果が出たので、次にこういう追加検査をして、診断をつけたらこういう薬を投与すればいい……という理論としての知識はあるのですが、まさに机上の空論、技術が全く追いつきません。
どこの病院でも聞く話ですが、研修医は看護師さんにからかわれる存在です。現場での実習経験がないのですから、長く現場を経験している看護師さんの方が、よほどスキルがあるのです。そのうえ、看護師さんから、患者さんに対する処理を聞かれると「上の先生に聞いてきます」と行って帰って、その指示を伝えるだけの伝書鳩でした。
確かにその程度で158,000円の手当をもらって経験を積ませていただいていたのですから、上長が「有難く思いなさい」と言ったことも頷けます。

初めての辛い体験

ところで、研修医時代は1年365日休みなし、毎日病院へ行って患者さんを診て勉強し、複数の診療科を経験しました。救急科では、急患を診るだけではなく、救急車にも乗り、麻酔をかけるなど様々な分野の勉強をさせてもらいました。手術の仕方などの医療技術のほか、患者さんとの接し方、患者さんや家族への説明の仕方など、医師としてのスキルがここで培われたように思います。
研修医時代の2年間はめちゃくちゃ忙しかったけれど、総じて楽しく過ごせたと思います。

その中で、医師なら誰でも避けて通れないことなのですが、私が担当させていただいた患者さんが亡くなったことが、とても辛い体験でした。中咽頭癌という耳鼻咽喉科領域の癌だったのですが、なかなか治りにくい癌で、治療の甲斐もなくリンパ節に転移してしまい完治することはできませんでした。ずっと関わってきた方が亡くなるということは悲しい出来事だったともに、医療の限界というものを強く感じました。医師である自分が病気を治すと考えていたことはおこがましいことであって、医師は患者さん本人が自分で病気を治すサポートをするだけであり、医療がパーフェクトということはあり得ないのだと実感しました。医療現場の厳しい現実を突きつけられた気がします。
私が医師を目指した理由は病気を治すためであり、治らないと分かっている患者さんに対して、本人とどう向き合って、どこまで治療をするかに焦点を当てて病気に対するということに苦労し、人の死に際に寄り添うことを続けていくのは心理的につらく、自分には向かないかもしれないとの思いが湧きました。

公立病院から民間病院へ

また、研修医時代は上長や先輩の指示に従うだけで、自らが主体性を持って治療にあたる場面がほとんどなかったので、徐々に現在の大学附属病院以外でも研鑽を積んでみたいとの想いが次第に強くなり、2年間の研修が終わってから、大分県にある民間病院へ赴任することを決断しました。
この病院では、今まで勤めていた公立病院と民間病院との差を強く感じました。
民間病院がこれほどまでシステマティックに運営し、無駄が少ないことに大きな感動を得たのです。医師は医師の仕事に注力する、看護師は看護師の仕事に注力する、コメディカルはコメディカルの仕事に注力する……それぞれが専門職として動き、全体としてうまく機能していることが、前の公立病院とは全く異なりました。公立病院では、時給の高い医師が医師にしかできない診察や手術など以外の、誰でもできる雑用まで行って超多忙な日々を過ごしている様子に、これが続くと医師はパンクして体を壊すか、離職に繋がるのではないかと考えていました。ですから、この民間病院の在り方に感銘を受け、大きな公立病院でも求められるべきだと思いました。

開業を決意

その大分県の病院を皮切りに、大阪、北海道を経て、再び奈良に戻ったのですが、ここで開業を決断することになります。
医学生の頃から、漠然と開業医になるんだろうなとは思っていたのですが、奈良に戻って自分で診療に当たって治療方針を立てていく中で、もっと自分の考えたような方針で診療してみたい、もっと効率的な組織も自分自身で作ってみたいと思ったことが、開業を決断した一番の理由です。勤務医であると、そこが大きな病院であればあるほど、一個人の意見は通りにくいものです。

個人の意見は、組織が大きくなれば大きくなるほど受け入れられにくいと感じました。とはいえ、異動する先々の病院には師匠と呼べる優秀な先生が居て、教えていただいた多くのことは今でも私の財産になっています。

クリニックの理念

先人たちの教えを胸に開業した私は、医師と患者さんとの立場の違いがあっても常に対等に接し、患者さんに何でも言ってもらえるようなフランクな関係を意識して診療に当たっています。また、スタッフにも私と同じ想いで働いてほしいと思い、クリニックの理念として次の5つを掲げました。

 1. 社会へ貢献する名誉ある役割を担い、責任を果たすこと
 2. 感謝し感謝される心を持つこと
 3. 笑顔で楽しみながら働くこと
 4. 礼儀正しく、誠実に徹すること
 5. 職員個々が夢を持ち、常に自己の改善に努めること

患者さんへの想い

また、私の法人は、医療を通じて日本の未来を明るくするために「日本一のモデルクリニック」を目指しています。
上からの指示を待って行動するのではなく、患者さんの立場に立って自分で考えて行動できるスタッフ教育をするとともに、法人すべてのクリニックでは、待合室を広く設け、バリアフリーにし、ベビーカーや車いすの患者さんがそのまま診察室に入っていただけるようにしました。

また、待ち時間もできるだけ短くなるよう、番号受付システムを取り入れている他、スマホでおよその待ち時間を表示する取り組みも行っています。そして、複数の治療方法を提示し、患者さんの希望に沿った一人ひとりの治療を選択していただくようにしています。さらに、患者さんの利便性を重視し、グループ内のクリニックでは電子カルテを共有するのはもちろん、スタッフが定期的にグループ内を異動してクリニック間の格差をなくすよう心がけています。
そうすることで、患者さんはその日の都合で行きやすいグループ内のクリニックで同じ治療を受けられるようになりました。耳鼻咽喉科の治療は根気よく継続していただくことが重要なので、患者さんの立場に立って継続して来院していただけるよう努力しているのです。

選ばれ続けるクリニックであるために

梅華会グループのモットーが「患者さんにとって治療の目的が分かりやすいこと」です。
患者さんへの病気の説明にはタブレットを使用して、ご自身の実際の状態と正常な場合とを画像を見て比べ、治療が必要なことを理解してもらっています。患者さんにとって医師の言葉による説明は意外と伝わりにくく、理解できていることは伝えたいことのおおよそ30%くらいと言われています。そして、日常の生活での注意事項も口早な医師の説明では、会計が終わってクリニックを出るころにはほとんどを忘れている可能性さえあります。
そういったことを防ぐためにも、医師の説明後にタブレットを利用して再度スタッフが説明を行い、患者さんにしっかり病気を理解してもらったり、その後の経過も画面上の画像で示すことで治療に対する信頼も深まり、根気よく継続して治療していただけることに繋がっていると思います。クリニックとしてのタブレットを利用するメリットとして、クリニック側から見ると繰り返し説明しても疲れない、また、誰が行ってもまったく同じ内容を寸分たがわず同じように説明できるということがあります。

タブレット以外のIT の利用として、20代、30代の若い患者さんには、了承を得たうえでメールマガジンやLINE を利用して積極的にクリニックの情報を発信しています。特に毎月の診療医師や休診日等については、希望される患者さん全員にメールを配信しています。そのほか、時期に応じて、インフルエンザ予防接種の予定や費用、花粉症の舌下免疫療法の開始時期の告知など、患者さんに有意義な情報も配信しています。

梅華会の医師たち

開業後10年過ぎた頃から、医師としての立ち位置より、法人の経営者としての立ち位置が多くなってきました。それでもグループ内で診察を行っている医師たちとは常に連絡を取り合っています。梅華会の医師は皆専門医ですし、例えば、アレルギー治療などそれぞれ得意分野を持ち合わせているので、常に情報を交換し、治療方針に対する擦り合わせを行うことで、私の勉強にもなりますし、お互いにレベルアップが図れています。
こうすることで、グループ内ではどの医師が診察しても同じレベルでの医療が提供できる体制を整えているのです。