マインドフルネスについて
マインドフルネスとの出会い
私はもともと現実主義で、スピリチュアルなものには全く関心がありませんでした。医学部出身で西洋医学一筋に歩んできた私にとって、マインドフルネスは縁遠いものでした。
そんな私がマインドフルネスと出会ったのは2019年のことです。交流のあった他業種の経営者から誘いを受け、インドの山奥の寺院で1週間のマインドフルネス修行に参加したことがきっかけでした。
修行を通じて気づいたのは、これまでの自分が地位や名誉といった外側の成功ばかりを追い求め、自分の内側——心の状態——を全く見ていなかったということです。
無意識のうちに自分を痛めつけ、苦しみを自分で作り出していたことへの衝撃は、今でも忘れられません。
コロナ禍でしばらく離れていましたが、明けてからは再び積極的に学びを深め、今では定期的に国内外で修行の機会を設けています。
ポルトガルの海岸やイタリアのベネチアでは日の出を見ながらヨガをし、朝から晩までマインドフルネスに向き合う時間を過ごしました。自然の中に身を置くことで、学びがより深まると感じています。
中でも特に印象深かったのが、2024年のトルコ・ボドルムでの合宿から帰国した際のことです。「これまでの人生で一番幸せな瞬間を感じた」と、確信を持って言えました。
その幸せは、組織が大きくなったとか、売上が上がったとか、外側の成功とは全く無関係でした。自分の内側、心の状態が整うことで生まれる幸せでした。
「今この瞬間」に生きるということ
人間は1日に数万回の思考を行い、その大半が「過去の後悔」や「未来の不安」といったネガティブなものだと言われています。
今この瞬間にいられない時、私たちは無意識のうちに自らストレスや苦しみを作り出しています。相手と話しながら「次に何を話そうか」と考えていたり、食事中にスマホを見ていたりする。
そういう状態では、目の前の人とも、食事の美味しさとも、本当の意味で繋がることができないのです。
逆に言えば、今この瞬間に意識を向けることで、目の前の人の話を全力で聞けるようになり、自然の豊かさや食事の味わいを感じられるようになります。その瞬間にこそ、愛や感謝といった感情が生まれます。心穏やかな「今この瞬間」からの意思決定やコミュニケーションは、周囲にも良い影響を与えます。
マインドフルネスはその「今この瞬間」に意識を戻すためのトレーニングです。呼吸に意識を集中させることで、過去や未来へさまよいがちな意識を今に引き戻します。
マインドフルネス中に雑念が浮かんでも、それは自然なことです。
「今別のことを考えていたな」と気づいて、また呼吸に意識を戻す。その繰り返しが、日常の中でも感情を客観視し、今この瞬間の穏やかさを取り戻す力を育ててくれます。
脳科学的に見ても、人間の脳は原始時代からの名残で、危機を察知する扁桃体が優位になりやすく、常に緊張状態である「β波」が出ています。いわゆる「戦うか逃げるか」という状態です。 一方、深呼吸やマインドフルネスによって副交感神経が優位になると、脳波は「α波」へと移行します。理性的な行動を司る前頭前野が活性化し、心が穏やかでクリアな状態になります。 良いアイデアや直感が「降りてくる」感覚を得られるのも、この時です。
アルキメデスがお風呂場で原理を閃いたのも、まさにこのリラックスした瞬間だったのではないでしょうか。さらに、日本人は「セロトニントランスポーター遺伝子SS型」を持つ人の割合が高く、遺伝的に不安を感じやすい性質があると言われています。 だからこそ、日本人にとって心を整えるマインドフルネスの実践は、特に重要だと私は考えています。
問題と苦しみを分ける
経営者として組織を率いていれば、悩みやトラブルは日常茶飯事です。それは当然のことだと、私はずっと思っていました。
しかしマインドフルネスを続ける中で気づいたのは、「問題があること」と「苦しむこと」は全く別だということです。
誰かから厳しい言葉をかけられたり、思いがけないトラブルが起きたりした時、私たちは反応的になりがちです。しかし、起きた出来事という「問題」は外側の事実であり、
イラっとしたり傷ついたりする「苦しみ」は自分の内側が生み出しているものです。
問題と苦しみをごっちゃにしたまま相手とコミュニケーションを取っても、関係はこじれるだけです。まず自分の意識状態を穏やかに整えた上で相手に寄り添う。
そうすることで、相手が本当に求めているものが見えてきます。問題と苦しみを分けることができると、相手への関わり方が根本から変わります。
以前の私は、トラブルに対して感情的に反応し、人間関係を悪化させることもありました。しかしマインドフルネスを続けることで、自分が苦しみの意識状態にあることに気づけるようになりました。
気づいた瞬間に、それはすでに解消に向かっているのだとマインドフルネスの先生から教わりました。苦しみを消そうとするのではなく、まず自分が今どういう状態にあるかを「内観」する。それが第一歩です。
日々の実践
現在は2種類のマインドフルネスを日々の習慣にしています。
毎朝行うのが「ソウルシンクマインドフルネス」です。12〜15分かけて行います。背筋を伸ばして座り、呼吸の観察から始まり、ハミング(蜂の羽音のような音で副鼻腔を振動させ、一酸化窒素を分泌させて血流を良くする)、静寂、そして最後に自分の意図や願いを心の中に放ちます。
もう一つが「セリーンマインド・プラクティス」です。
イライラや不安など、自分が苦しみの状態に入ったと気づいた時に、2〜3分で行う短いマインドフルネスです。
眉間から脳の中心に向かって炎が入っていくようなイメージを持ちながら、感情を静め、心を穏やかな状態へと導きます。

また、就寝前に「幸せ日記」をつけることもお勧めしています。その日良かったことや感謝できることを4行程度書き留めるだけのシンプルなものですが、愛と感謝を意識することが心の穏やかさにつながると感じています。
難しく考える必要はありません。最初はたった1分でいいのです。目を閉じて、鼻から4秒吸って8秒かけて吐く。ただその呼吸に意識を向けるだけで、心は少しずつ整ってきます。
雑念が浮かんでも、それは自然なことです。気づいたらまた呼吸に意識を戻す。その繰り返しがマインドフルネスです。
ピークステートからビューティフルステートへ
私はかつて、世界的なビジネスコーチ、トニー・ロビンズのセミナーに何度も参加してきました。以前の彼はエネルギーを高く保つ「ピークステート」を重視していましたが、2016年頃から「ビューティフルステート(穏やかで安定した心の状態)」という言葉を使うようになりました。 マインドフルネスを学んだことで、心の安定こそがパフォーマンスを引き出すと気づいたからだと思います。
私も同じ変化を経験しました。かつては何かを達成することや、組織を大きくすることに意識が向きがちでした。しかし今は、どんな状況でも心穏やかな「ビューティフルステート」でいることを最優先にしています。
リーダーの意識状態は、組織全体に伝播します。トップ自身が整っていなければ、どんな戦略も言葉も、スタッフには届きません。
医師として伝えたいこと
2023年、ニューヨーク市のすべての公立学校で、朝の時間にマインドフルネスを行うことが義務化されました。現代社会において、心のケアがいかに重要視されているかを示す出来事だと思います。 メニエール病をはじめ、現代の病気の多くはストレスが根本的な原因になっています。薬で症状を抑えるだけでは根本的な解決にはなりません。病気になる前に自ら心を整える習慣を持つことが、真の意味での予防につながると私は考えています。 そのため、クリニックにマインドフルネスセンターを併設し、薬に頼らない治療の選択肢を提供しています。
医療従事者は、日々ネガティブな状態の患者さんと接するため、無意識のうちにエネルギーを消耗しがちです。
スタッフ自身が心穏やかでいられてこそ、患者さんに本当の安心感を届けることができる——そう信じて、スタッフへのマインドフルネスの普及にも取り組んでいます。
社内では「心を穏やかにする呼吸法」として、脳波や自律神経の科学的な根拠とともに伝えるようにしています。
日本は自己肯定感が低く、自殺率が高いという社会課題を抱えています。
医療の現場から「心の平穏」を広げていくことが、医師であり経営者である私の使命だと考えています。